"コンロンソウの咲く春の御前山を楽しもう"
御前山観察会報告
当会では初めてとなる春の御前山観察会を5月6日(日)に実施しました。御前山は江戸時代に御留山として樹木の伐採が禁じられたこともあり、今日まで豊かな植生が保存されてきました。特にコンロンソウの群生は有名で、東京あたりから植物愛好家がバスで見学に来るほどです。当日の朝は快晴、9時30分、道の駅「かつら」の河原の駐車場に集合。一般参加者12名、会員8名の参加がありました。
東登山口に入ると、すぐにニリンソウの群落が迎えてくれました。よく見れば、トウゴクサバノオなどもあります。この辺りには、その名のとおりの若葉がでているベニシダ、名は体を表すジュウモンジシダやリョウメンシダなどがあり、シダは初めてという人でもすぐ覚えられます。アオキの雄株と雌株、コクサギなどを見ながら進むと、キヨスミイトゴケが木の枝にぶら下がっています。このコケは自然度の豊かな渓流沿いにしか見られないものです。シラカシ、ウラジロカシ、アラカシなどに交じって、サカキ(榊)の大木があります。関東ではサカキが少ないため、神社では代わりにヒサカキ(非榊)を利用することが多いようです。やがて東屋のある休憩所につきます。ここではまだつぼみのツクバネ、やっと花が咲いたミヤマガマズミなどがあります。
しばらく森林浴を楽しみながら尾根の小道をゆくと、マムシグサが多数出迎えてくれました。黙っていましたが、先日、実は本当のマムシを見かけたとか。やがて鐘撞堂跡に出ました(写真)。ここはこの山一番の展望台で、那珂川や雑木林と植林地との入り混じった新緑の山並みを楽しむことができます。早目の昼食としました。
11時45分、ふたたび森林浴で進むと、ホウチャクソウ、チゴユリなどがちらほらと咲いていました。一般参加者から「あれ、ギンリョウソウが!」の声。その後、あちらこちらでも多数見つかりました。やがて青少年旅行村への分岐があり、西登山口方面へ下る。この下り坂にはコケ類やスゲ類も現れて、その道の"おたく"には楽しいが、あまり深入りせず進む。ちょっと珍しいタチガシワが咲いていました。道路脇なのに、なぜか採取されずに昔からここに生き延びている。左手の渓流沿いの大木にはマメズタがびっしり。岩の上の斑点状のものは地衣類でヘリトリゴケ、注意していれば、ごく普通にどこの岩にもみられるが、正体を知る人は殆どいないようです。
やがて西登山口まで下りてきました。ここにはちょっとした広場があり、サイカチの大木が立っている。可憐なタニギキョウも多数咲いている。イネ科のムカゴツヅリ、ニリンソウもある。ここからは皇都川沿いに舗道を歩くことになります。すぐにキャッチフレーズのコンロンソウが川岸に多数見られました。満開でちょうど見頃です。誰も気にしない雑草的な幅広い葉の"草"も群生している。これが県絶滅危惧種のササクサとは! まったくパッとしないイネ科なので、採取されて絶滅する恐れはなさそうです。ジロボウエンゴサク、ツルカノコソウ、ムラサキケマン、ヤマハタザオ、ラショウモンカズラと続いたが、この辺りからパラパラと雨が降り出し雷も鳴り始める。皇都川沿いにケヤキの大木が多数立っている広場があり、「ケヤキ展示林」の看板がある。ここではササクサの中にコンロンソウが多数咲いていて見所と言えます(写真)。やがて雨は本降りとなり、雷鳴も轟いたので、足早に駐車場へと戻りました。
途中から雨となったため、帰路はじっくり見ることもできず残念でした。しかし、短い距離でこれだけ多数の植物が観察できる場所は県内では少ないと思います。帰宅後に知ったことですが、あの雨のころ、筑波方面では竜巻のため大きな被害が出ていました。今回出会った植物たちは竜巻とともに末永く思い出に残ることでしょう。
(文 高橋雅彦)