八溝山 秋の観察会
今年の八溝山観察会は不運な環境にありました。まずは、予定していました10月31日(日)は台風14号の影響があり、前々日には早々に延期に追い込まれました。そして台風一過と期待した11月3日は快晴(!)に恵まれましたが、独立峰八溝山は北東からの強い冷たい風に手も痺れるほどの寒気になりました。そして寒気ならば服装で耐えられるのですが、今年の八溝山の紅葉は全く当て外れになってしまいました。
特に、春の観察会ではまだ春の気候ではなく、新芽も出ていなかったオオイタヤメイゲツ。今回も紅葉でなく黄色がかった緑葉だけ。しかも皆さんが期待していましたアサノハカエデは、周辺が紅葉していないのにも係わらず、あの特徴的な長い葉柄の葉を1枚も見られず、また木の下にも全く痕跡さえ見られない状況に。あの美しい八溝山の紅葉は一体何処に行ってしまったのでしょうか、また何が起きたのでしょうか…。
1.観察会の実施日 2010年11月3日(水)午前8時〜午後3時
2.観察会のコース 八溝嶺神社・八溝天然保存林・茗荷林道鹿ノ又支線
撮影者;杉山さん(一緒に入ってもらいました) |
(1)八溝嶺神社
参加者全員で各自お賽銭をあげそれぞれの思いで無事の終了を祈念しました。またお祈りの前に、神社脇のオオイタヤメイゲツの葉の採集をしました。
(2)天然保存林
天然林までの茗荷林道は例年に比べ紅葉はイマイチでしたが、天然林の中の樹木の紅葉はほとんど緑色の葉と、既に落葉してしまった木ばかりでした。一部ミネカエデだけが紅葉していたのが目に付いた程度です。
(3)昼食
予定通り12時には昼食の場所にたどり着きました。この谷底までは冷たい風が届かなかったのですが空気が冷たく、皆さん日の当たる場所を探して三々五々斜面に腰を下ろしての食事でした。しかし尻の下のふんわりした落ち葉はフリクションを低減させ、ニュートンの法則を身に感じ、足を踏ん張り座らないとずり落ちる忙しい食事になりました。
(4)茗荷林道鹿ノ又支線
天然林から車で10分弱の鹿ノ又支線の登山道を歩きました。例年ならばここの紅葉は素晴らしいのですが、今年はイマ2(?)で色合いが大分悪いようでした(前頁下の写真)。しかも例年毎年見られたあの大きなハウチワカエデ、また皆さんが昨年採集した真っ赤なハウチハカエデも一部紅葉が始まった程度で、寂しい紅葉観察会になってしまいました。(無念!)
ここで唯一の紅葉は右の写真ウリハダカエデのみでした(手前の緑色のカエデはハウチワカエデ)。しかも高いところの葉なので親近感の少ない紅葉観察でした。
(5)今回観察した植物
・カエデ類
オオイタヤメイゲツ、ヤマモミジ、カジカエデ、オオモミジ、ミネカエデ、コミネカエデ、チドリノキ、イタヤカエデ、ミツデカエデ、エンコウカエデ、ハウチワカエデ、コハウチワカエデ、ヒトツバカエデ(マルバカエデ)、ヒナウチワカエデ、ウリハダカエデなど15種。(残念ながらアサノハカエデは私が知っている八溝山にある2本とも葉を残していませんでした。)
・シダ類
ヘビノネコザ、ミヤマイタチシダ、ハリガネワラビ、ジュウモンジシダ、オシダ、ハクモウイノデ、イヌワラビ、ミゾシダ、シノブ、ノキシノブ、ミヤマノキシノブ、ヒメノキシノブ、シシガシラなど13種。
・コケ類
イクビゴケ(猪の首に似る?)、ホソバオキナゴケ(翁の髭?)、ハミズゴケ(葉が見えないコケ)、ヒノキゴケ(ヒノキの葉に似る?)、ハイゴケ(地面を這うコケ)など5種(もっとありましたが時間とともに記憶が消去されてしまいました。)
・その他
サルノコシカケ、ヒメキクラゲなどのキノコ類や地衣類など。またミズナラに寄生するミズナラメウロコタマフシ(左の写真)なども観察できました。
(6)観察会を終わっての感想
あの猛烈な高温だった夏の日々、その暑さで八溝山は熱中症になってしまったのでしょうか?そして急激な冷え込みで風邪をひいてしまったような異常な景色の八溝山でした。
しかし参加者が6名と少ない観察会になってしまいましたが、少人数であるが故に皆さんが一体になり、まとまって楽しい観察会になったのは何よりでした。また残念なことは、日程を延期したことで一般の参加者が皆無になってしまったことです。次回の八溝山には、種々の問題があってもそれを乗り切る魅力ある計画にしたいと思います。
しかし今回のような野草、樹木、蘚苔類にシダなどを観察すると忙しく、足元を確認する時間が不足しましたが、それでも八溝嶺神社は我らの安全を護ってくれました。
最後に、今回の観察会を計画してくれました杉山さんが、全国会の話合いがあるとのことで天然林の入り口で早退されました。でも道に迷うこともなく帰宅できましたことは八溝嶺神社へのお賽銭のご加護と感謝して皆さんに報告します。
報告 林 聰一郎
○吉田さんからの感想文
八溝山はさすが1000m級の山、太陽が顔を出していたにもかかわらず、車から降りたら、まず冷たい北風の洗礼を受けて、ぶるぶるっと身震い。まだ里では暖かかったので少々油断していました。
昨年の秋は多くの落葉樹が葉を落としてしまった後だったので、今回はカエデ類がどのような姿で我々を迎えてくれるのかと期待していたところ、何と今年は神社の脇にあるオオイタヤメイゲツがまだ青葉。なかなか八溝山のカエデはあでやかな姿を見せてくれません。素敵な紅葉と出会うのは難しいですね。1つ、不思議だったのは山頂あたりのカエデは青葉か枯れ葉だったのですが、保存林に下りていくにつれて紅葉している木が増えてきたことです。標高が低いほうが紅葉している?保存林が北斜面のため気温が低いのでしょうか。
紅葉のほうはイマイチでしたが、沢山のシダ・コケ類を見ることができました。だいぶおなじみになってきたハリガネワラビをはじめとして、葉柄に白い毛が生えているハクモウイノデ、葉の上半分にしかソーラスがつかず、しかもその部分が枯れているクマワラビなどなど。シダというと地面を見てしまいますが、木の上のほうに目を向けると、ノキシノブやシノブが。シノブは樹皮から葉を出しているかと思いきや、よく見ると樹皮の上を根がくねくねと曲がりながら張り着いており、そこからちょこんと茎や葉が伸びており、私にとっては発見でした。
コケのほうは高橋さんが名前についてわかりやすい説明をして下さったことが印象的でした。葉がほとんど目立たないのでハミズゴケ、胞子体が猪の首のようなイクビゴケ(私には猪の首には見えませんでしたが)、ヒノキの葉に似ているというヒノキゴケ、「はいっ、苔です!」のハイゴケ、などなど(最後だけ異質の説明ですね)。今回の観察会は6人と少人数でしたが、それが幸いして皆さんとわいわい楽しみながら八溝山の保存林を散策することができました。林さん、高橋さんをはじめとして皆さま、楽しい時間をどうもありがとうございました。
*1(報告者コメント)は「オクマワラビ」ではなく「ミヤマイタチシダ」の勘違いかと思います。