「オオチチッパベンケイ移植報告」〜その2〜
1.オオチチッパベンケイの概要
オオチチッパベンケイは茨城県レッドデータブックに記載されている危急種(*1)で保護が必要な野草です。そのオオチチッパベンケイは近年登山者や特定な野草業者が盗掘し絶滅危機の状態にあります。
私たち森林インストラクター茨城はこれを保護育成するため、2003年秋に種子を採取・増殖し、昨年2007年5月に生息地の茨城県大子町山中に移植しました。それは2007年5月28日の茨城新聞で報道され、また本会ホームページでも「オオチチッパベンケイの育成と移植」として掲載しましたので、ご覧になった方もいらっしゃるかと思います。
オオチチッパベンケイは日本国内で茨城県大子町と福島県伊達市の山のみに生息すると言われています。しかし最近大子町の男体山でも見かけたとの報告がありましたので、盗掘などがなければ序々に増えて絶滅しないとも考えられます。しかしながらオオチチッパベンケイの絶対数は少なく、これからも長く生存させるためには手厚く保護しかつ盗掘防止をはかり、またそれ以上に移植することも重要と考え、11月26日に2回目の移植をしました。
*1参考;環境省レッドデータブックでは、絶滅危惧種IB類(EN)に分類され「近い将来に絶滅する危険度が高い種」としている。
2.移植
昨年に続いて種子を採取した場所に3名の会員が移植しました。移植した株(写真−1)は今年発芽した約600株のなかで比較的元気な300株を選びました。でも今年は晩夏から初秋にかけて雨が多かった影響で幹の葉は大部分が落葉し、なかには全数落ちてしまった株もあり、花後の種子は実らないのではないかと心配です。しかし株の生え際にもう来春の芽も出ましたので、故郷の山の中ではきっと元気になるだろうと期待しています。
3.残念な報告
今年の移植は11月で昨年は5月でした。なぜ今年は11月に実施したかと言えば、効果があるかどうかは別として盗掘防止が目的です。昨年移植した40株は5ヵ月後の10月21日には38株が見事な花を付けていました。しかしその直後11月4日に調べたところ、花を付けた全数の38株は残らず姿を消して、残り2株は無残にも踏み潰されていました。
また周辺の自生株を調べたところ昨年はおおよそ10株が確認できましたが、今年11月26日には小さい1株だけが確認できたのみです。自生地は切り立った岩壁で採集するにはかなり危険です。きっと今年は私たちが移植しなかったので自生株が被害にあったのかもしれません。そう考えざるを得ないことは何とも寂しい思いがします。
自生地や隣り合わせの移植地の状況を考えると、10月下旬に花を咲かせるのはオオチチッパベンケイの他にヤクシソウなど少数です。名の知れないオオチチッパベンケイは目立つことは確かです。さらに移植する場所は作業に危険のない場所を選んでいますので盗掘がしやすいとも言えますが。
昨年消えてしまったオオチチッパベンケイはある場所の「秋の山野草展」の展示即売店で販売していたと、それを見た会員から報告がありました。そして悪気もなく採集した場所を話してくれたそうです。名も知らない美しい花が咲いていれば欲しくなるのは仕方のないことかもしれませんが残念です。周辺にはその他にニッコウキスゲ、ミヤマスカシユリやイブキジャコウソウなども消えつつあると、大子ジャーナルの編集長小室久氏は言います。(大子ジャーナル2007年11月17日紙に掲載)
4.盗掘への対策は?
売る人も買う人も商売や興味本位ばかりでなく、野草保護をもう少し考えてくれれば大分違ってくると思います。保護には自生地周辺に看板などで注意を喚起することも検討しました。しかし絶滅危惧種などを保護することに消極的な地主さんの賛同は得られず、また看板などは逆効果にもなりかねません。この様な状況でただ盗掘数以上に移植することに意義があるのかどうか悩んでいるのが現状です。
茨城県では「茨城県版レッドデータブック 茨城における絶滅のおそれのある野生生物」の植物編と動物編が出版されています。もう少し声の大きい広報があれば「盗掘者を減らすことになる」のかもと“はかない期待”をしています。
最後に、2003年に種子を採集し翌年からオオチチッパベンケイを育て5年が経過します。その間に色々なことが判ってきました。今年中に観察結果の報告ができるようにと努力中です。
森林インストラクター茨城 林 聰一郎