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「オオチチッパベンケイ」の育成と移植

茨城県版レッドデーターブックに記載される危急種「オオチチッパベンケイ」を会員有志が増殖し現地に移植したので報告します。(茨城新聞2007年5月28日版に関連記事)

1.オオチチッパベンケイの概要

オオチチッパベンケイ

オオッチッパベンケイは、双子葉植物(離弁科類)ベンケイソウ科ムラサキベンケイソウ属(学名:Hylotelephium sordidum (Maxim.) H. Ohba)の植物で、久慈郡大子町の生瀬富士と福島県伊達市(旧保原町)雨乞山のみに生息すると言われ、茨城県版レッドデーターブックでは危急種(*1)に、環境省レッドデータブックでは絶滅危惧種IB類(EN)に分類され「近い将来に絶滅する危険度が高い種」とされる珍しい多年草の植物です。

1971年大石光男氏が雨乞山で発見し命名したと記録がありますが、チチッパベンケイと区別できないとも、また生瀬富士と雨乞山とは染色体数が異なっている等の報告も別にあります。

2.種子の採取と育成・移植

オオチチッパベンケイは2003年秋に久慈郡大子町の生瀬富士にて植物観察中に発見し、種子を採取し自宅の庭で育成・増殖しました。予想外に順調な育成ができましたので森林インストラクター会のメンバーに配布し共同で実施しました。これは何らかの要因(環境変化等に適応できない可能性)を考え危険性を回避するためにとった手段です。

これまでの経緯を記述いたします。上記しましたように2003年秋にその株を発見し、茎の先端に付く細かな種子と思われるものを採取しました。それを2004年の春、自宅の庭に蒔いたところ3株発芽しましたが2株は数ミリ程度にしか成長できませんでした。成長できた1株は20センチ程度になり秋に白い花を咲かせ晩秋には種子(らしきもの)を付けました。それを2005年春に蒔きましたが全く発芽をしませんでした。しかし前年2004年の株(根)から出た芽は大きく成長し秋には開花・結実し、2006年春にはその種子から約100本も発芽し、その半数が15センチ〜20センチに成長し秋には約80%が開花しました。ところが2007年春の成績は芳しくなく子どもの株からの発芽はゼロでしたが、幸いなことに親株からは約40本の発芽がありました。

この2006年に発芽したものと2007年に発芽した幼芽各20本を、5月24日に生瀬富士に持参しましたが元の場所を探せず、やむなく異なる場所ですが同種を発見した場所に移植しました。1ケ月後と10月頃にその状態を確認するための観察会を実施する予定でいます。

自生種オオチチッパベンケイ 移植オオチチッパベンケイ
自生種のオオチチッパベンケイ 移植したオオチチッパベンケイ2株

3.オオチチッパベンケイの各種観察結果

1)全体の大きさ等

サンプル数が少ないので決定的なことは言えませんが、成長した状態で全長20〜30センチ、茎は赤紫色でその太さは3〜4ミリ、葉の大きさは2〜2.5センチ、葉柄は5ミリ程度で葉脚は楔形です。全体的には通常のベンケイソウに似ますが葉は円形に近く先の尖らない鋸歯があります(写真参照)。

2)種子の扱い

種子の大きさは極めて小さく、その判別は肉眼では困難な程度です。従って種子の採取が困難なので花(果実)の下に種子を受け止める器を置き翌春の発芽で確認しました。

3)葉および茎の性質

葉は肉厚で手を触れると直ぐに落下してしまうほど茎との結合力は弱い。また茎の生え際は弱いので倒れた茎を支えると折れてしまう。(風の強い場所では生息が困難か?)

4)葉の色

茎は全て赤紫色であるが、ほとんどの葉表は緑色で裏は赤紫色、しかし20%程度のものに葉裏が緑色のものがありました。

5)種子の結実

観察した範囲で発芽した年は、開花はあるが種子の確認(翌春の発芽)はできなかった。また隔年毎に発芽数の増減や成長の良否の傾向が顕著でした。

6)危急種への要因

小室氏の推定によると登山記念に持ち帰ったのではないかとのこと。しかし筆者の推定ではオオチチッパベンケイが盗掘される程に美しいとは言い難い花であり姿でもあります。特に上記しました傾向(葉が落ちやすい、茎が折れやすい等)により自然消滅の運命にあるとも考えられます。

4.移植に参加したメンバーの紹介

塚本氏と永瀬氏
現地で塚本氏と永瀬氏

1)大子ジャーナル編集長 小室久氏

奥久慈の自然を熟知し生態系の保護と価値を広く紹介しています。今回のオオチッパベンケイの発見は氏のご指導によるところが大です。

2)茨城新聞記者  赤城弘徳氏

今回この移植を自然保護の立場で茨城新聞に紹介していただきました。

3)森林インストラクター茨城

塚本 紘氏(同副会長)、永瀬瑞雄氏(同理事・いこいの森所長)、林 聰一郎(同会長)

この他に茨城生物の会理事で、常陸海浜公園の圃場で野生植物の育成をしている久下沼光始氏が参加予定でしたが、日程の都合がつかず欠席しました。

*1;茨城県版レッドデータブックには絶滅種、絶滅危惧種、危急種そして希少種の4種類のカテゴリーがあります。その中で危急種とは、"「絶滅の危険が増大している種または亜種」で、もしも現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用するならば、近い将来「絶滅危惧種」のランクに移行することが確実と考えられるもの。"と説明がありました。

茨城県版レッドデーターブック・茨城における絶滅のおそれのある野生生物<植物編>から

文と写真  林 聰一郎

最終更新日:2007年5月29日
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